ファーマシーそま通信 2025盛夏号
私たちのオススメ
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☆腸内細菌とアルツハイマー型認知症☆
兒玉眞理子
<腸内細菌はアルツハイマー型認知症の原因の一つ>
アイルランドで行われた興味深い研究です。健康なラットにアルツハイマー病患者(以下ADと略する)の腸内細菌を移植すると、アルツハイマー病に見られる記憶障害が発生したことが示されました。
この研究では、健常人とADの糞便を腸内細菌のいない若いラットに移植し、種々の記憶力テストを実施しました。その結果、ADの腸内細菌を移植されたラットでは、脳の海馬で新しい神経細胞が成長しにくく、記憶力が損なわれていることがわかりました。しかも、臨床的により重症なADの腸内細菌を移植されたラットでは、より重度の記憶障害が認められたとのことです。
(BRAIN 2023:146;4916-4934)
<アルツハイマー型認知症に特定の悪玉菌はいない?>
米国在住のアルツハイマー型認知症患者と健常者、各々25名の便中の腸内細菌を分析した結果、ADでは、腸内細菌叢の多様性が減少し、細菌叢の構成も健常者とは異なっていることがわかりました。(Sci Rep 2017;7:13537)
日本人を対象とした研究でも、同様の研究結果がありますが、どんな菌が増減しているかという点は、米国と日本で異なっていました。
このことから、アルツハイマー型認知症の原因となる特定の悪玉菌がいるのではなく、腸内細菌叢の多様性が減少することや、構成に偏りが起きることがアルツハイマー型認知症の発症に関係があるのではないかとと考えられています。
(GUT MICROBES 2023,VOL.14,NO.2,2271613)
☆脳と腸の関係☆
脳と腸は、迷走神経(代表的な副交感神経)でつながり、相互に連絡を取り合っています。脳と腸はどちらも幸せ物質セロトニンを産生しています。
脳で産生されるセロトニンは、心身の安定と適度な緊張感を維持するのに必要な神経伝達物質です。
腸で産生されるセロトニンは、脳の血液脳関門を通過できないのですが、腸のセロトニン量が迷走神経を通じて脳に伝えられます。脳は、腸の状態の変化について迷走神経から情報を得て、それに基づいて腸の蠕動運動などをコントロールしています。
セロトニンはトリプトファン(アミノ酸の一種)を元にして作られますが、その時必要なのがビタミンB6。ビタミンB類を体内で合成しているのが腸内細菌(バクテロイデス属、一部の大腸菌、乳酸菌)です。これらの腸内細菌が減ってしまうと、ビタミン類が食品から充分に取り出せず、脳内でセロトニンが作れないことになる可能性があります。
つまり腸内細菌叢が精神的な安定に寄与しているのですね。腸と脳はどっちが先か、鶏と卵の関係!?
☆皮膚と腸の関係☆
近年、腸内細菌叢と肌の細菌叢が相互に関連し合っていることが明らかになり注目されています。腸内・口腔・皮膚にはヒトの3大常在菌叢があり、特定の腸内細菌に対する免疫応答が肌の細菌叢にも影響を及ぼすことや、腸内細菌の代謝物が肌の状態に影響することなどが判っており、例えば、
*ピロリ菌感染者は発赤や酒さが出やすい。
*腸内細菌叢の乱れにより腸管バリア機能が低下すると、皮膚の炎症が悪化する。
*乾癬に対する予防効果のある腸内細菌が存在する。
*腸内細菌代謝物が肌の炎症の促進や予防、痒みやニキビと関連している。
腸内細菌を健全にすることは、肌を健康に保つ秘訣です!
News!! 「フェカリン」は乾癬に関して特許出願中です。
☆良い腸内細菌叢の条件☆
健康効果の高い腸内細菌叢の条件は、「多様性」と「短鎖脂肪酸を作る菌」です。
「多様性」とは、いろいろな種類の菌がバランス良く生きている様子です。以前は、「悪玉菌」「善玉菌」「日和見菌」という概念がありましたが、悪玉菌の中にも良い働きをするものがあるなど、一概に善悪を区別できなくなっています。
「短鎖脂肪酸を作る菌」は、ビフィズス菌や酪酸菌産生菌を指し、これらは多い方が良いと考えられています。これらの菌が食物繊維などの「エサ」を食べた後に分解して作る短鎖脂肪酸は、腸や身体のエネルギーになり、大腸の粘膜を修復します。消化吸収や排便を促すほか、脂肪が蓄積しにくくなって肥満を予防したり、炎症を抑えたり、免疫を調節したりする作用なども注目されています。(https://asahi.com/relife/article/12575772)
そうすると、健康効果の高い腸内細菌叢にするには、「食物繊維を摂ること」が大切です。
日本人の食事摂取基準(2025年)草案では、「成人で少なくとも1日あたり25グラムの摂取を推奨」するとなっています。食物繊維は摂取量が多いほど健康効果の認められる数少ない栄養素で、総死亡率の減少、心筋梗塞・脳卒中・循環器疾患・2型糖尿病・乳がん・胃がん・大腸がんの発症の減少、体重・収縮期血圧・総コレステロール値の低下といった多様な健康効果のあることが判っています。25〜29g/日の摂取量で最も顕著な効果がある観察されたとの報告があります。
最近、「難消化性でんぷん」も食物繊維の仲間に入るようになりました。
含まれる食品の例
○冷めたご飯(炊き立てのご飯は消化性ですが、冷めると一部のでんぷんが難消化性に)
○冷めたじゃがいも(ご飯と同じ理由)
○バナナ(特に青い未熟バナナ)
○豆類全粒穀物
○パスタ
*胃の弱い方は食べすぎないようにした方がいいです!
☆健康に良いのは昔の日本食☆
塩分が高いことを除けば、日本食は理想的な食事だとされています。ただ、これは過去の日本食の話。1960年、75年、90年、2005年それぞれの時期の日常食を再現、それを粉末化し、老化しやすいマウス(SAMP8)に8週間食べさせた研究結果によると、2005年の食事と比較して内臓脂肪がたまりにくく、寿命も長く、認知機能も良好であったのは、1975年の日本食を食べたマウスだったそうです。
この頃の日本食に比べると、現在の日本食には、
✔発酵食品が少ない。
✔野菜が少ない。
✔果物やナッツ類を食べなくなった。
✔ミネラル・ビタミン不足(新型栄養失調)
✔脂質が大幅に多い。
という問題点があるようです。果物は食べていると思う方も多いでしょうが、若い人は摂取が少ないという統計があります。
(https://style.nikkei.com/article/DGXMZO1607348oY7A500C1000000/)
☆腸年齢セルフチェック☆ 実年齢に足し算・引き算してみましょう!
*各項目ごとに −1
□豆腐・厚揚げが好き
□塩分は制限している
□発酵食品が好き
□スープより味噌汁が好みである
□田舎、地方の出身である
□3人以上の兄弟がいる
□週に3回以上運動をしている
□深夜0時までには就寝している
□玄米・麦など全粒穀物を3食に1度は食べる
□朝食後に便が出ることが多い
□見た目が若いと言われる
*各項目ごとに +1
□朝食を摂らないことが週に4回以上ある □タバコを吸う
□外食が週4回以上ある □ストレスを感じている
□コーヒーには砂糖を入れる □寝不足である
□アルコールは週に4回以上のむ
□野菜不足だと思う
□牛・豚・羊など肉類が好き
□便秘である
□いきまないと便が出ないことが多い
□コロコロした便のことが多い
□おなら・便が臭い、臭いと言われる
□仕事でも休日でも運動不足である
□肌荒れや吹き出物で悩んでいる
□胃酸分泌抑制薬をのんでいる
□抗生物質をよく服薬する
□コンビニエンスストアをよく利用する
□仕事、買い物には車で出かける
マイナス 個 実年齢 才 = あなたの腸年齢 才
プラス 個
「増やそう育てよう!腸内細菌」あさイチNHKより